画家志望・夢を追い現実を無視した人生

元博(仮名)さんは画家志望の28歳です。彼は夜はでコンビニでアルバイトをしながら、日中は公園で自然風景を描き、描いた絵を街角で売っています。

画家を志す前は大学卒業後広告企画営業の仕事をしていましたが、仕事に馴染めず3ヶ月で退職。その後ずっと興味のあった風景画を描きたいと独学で絵を勉強して6年、今に至っています。

そして、元博さんがカウンセンリグを受けるきっかけになったのは、同棲して3年の彼女(30歳)から結婚をせまられたことからでした。
彼女は結婚と同時に、元博さんに安定した収入を得ることが出来る仕事に就いて欲しいと要求を出してきたのでした。

我かに対する思いと、彼女との結婚。
この問題に心理的に挟まれ、カウンセリングを受けに来られたのでした。

しかし、元博さんの希望としては結婚するのはいいとしても、画家になることを諦めてまで定職の仕事をする気持ちはないようです。

彼によると「多くの人は僕に安定した仕事に就いて、空いている時間に絵を描けばいいというけど、そんなことをしたら、今までの何のために一生懸命6年間絵を描いてきたか分からない。仕事に就いてしまったら、絵を描く時間もなくなるし、一生画家にもなれないと」と働くことに対して大変な拒絶です。

では、彼女と別れることになったとしても絵を描き続けるのかと訊ねたところ。
「それは嫌だ」とのことでした。彼女のことは好きなようです。

また、現在の元博さんの生活状況は主たる収入は彼女が稼いでおり、元博さんはアルバイトで生活費の足しを稼いでいます。元博さん自身は絵を描くのに日々没頭しており、小遣いはほとんど要らないようです。

それから、街角で絵を売るといってもこれは月に1度ぐらい、売れるかと言えば道行く人の反応はまったくないようです。

では、私が気付いた彼の問題を整理したいと思います。

1.28歳で定職に就いていない。
2.彼女の収入で生活を維持している。
3.仕事に就くと画家になれないと思っている。
4.描いた絵を月に1度しか売りにいかないと。
5.彼女との結婚と将来をきちんと考えていない。

まず、1と2は共通性があります。彼女が生計を維持しているため、定職に就かなくても生活出来ることを意味しています。彼女に生活基盤を依存しています。

では次に3。働き出したら画家になれないと思っている。これはどう解釈しましょう。元博さんは働き出したら絵を描く時間がないと言われますが、本当にそうでしょうか。
働きながらプロを志す人はたくさんいます。彼の働きたくない理由をこじつけているとしか思えません。

そして4。描いた絵を月に1度だけしか売りにいかない。街角で自身の描いた絵を広げることは多くの人に見てもらう絶好のチャンスです。見てもらうことは認めてもらうことにつながります。
したがって月に1度しか絵を広げないということは自らチャンスを狭めてしまうのです。

この点について元博さんに確認したところ、「以前は頻繁に絵を売りに行っていたが誰も買ってくれず、いい加減絵を売りに行くのが嫌になった」ということです。
更に何が嫌なのか質問したところ「自分が無視されていて惨めな気持ち」になることだそうです。

さて、ここまでのカウンセリングから、元博さんについてまとめてみますと、画家を志し日中は絵を描いている。
これは働かず、社会的経済的に自立していないことを意味します。

また、画家になりたいと言いながらも道行く人々の無視を恐れて、描いた絵を売りにも行かず自らチャンスを閉ざしています。

私は本当にその道に進みたい人は周囲の評価を気にせず、自己の能力を信じて前進するものと思っていますので、本当に元博さんが画家になりたいのか疑問を感じます。

そして、彼女との結婚と生活のこともきちんと考えていません。

ここまで書くと言い過ぎかもしれませんが、彼は働くという現実から逃げるために画家を志すという口実を作り、経済的利得を社会人である彼女に依存しているとしか考えざるを得ないのです。

現実の事態を無視しているのです。

もし、そうなら何が元博さんにそのような行動を取らせているのでしょうか。彼は以前3ヶ月企画営業の仕事をしていました。
なぜ、3ヶ月で退職したのか聞いてみました。

「入社当時最初の2ヶ月は研修期間で問題ありませんでした。しかし、3ヶ月目に自ら営業活動をして広告主に会いに行くのですが、会ってもらえなかったり、せっかく会えて話しをしても聞いてもらえなかったり、無視されて不眠症になるぐらいのストレスでした。また、あの思いをすると思うと怖いのです」

これが今働かない元博さんの本音のようです。

何が原因で傷つくか、その原因と深さは人各々です。そして、話しを聞いて分かるとおり元博さんは拒絶や無視されることに敏感なようです。
絵を売りに行っても誰も相手にしてくれないことを周囲の拒絶と感じたり。
営業活動でお客さんに会ってもらえないのを拒絶と感じたり。

確かに現象だけをみると拒絶なのでしょうが、その原因は元博さんを無視しようと思ってしているかどうかがポイントです。

絵を売ることを考えると、時間帯はどうであったのか、人通りは多い場所か、さらな、人を振り向かせるほどの絵であったのか。

営業活動について考えると、お客さんは忙しかったのかもしれないし、今は広告を必要としていなかったのかもしれません。また、新規開拓でしたら忙しい広告主に会ってもらう方が奇跡的なことかもしれないのです。

何でも、自分に関連づけて、自分の人格が拒否されたと考えることは、思考、認知に問題があるのではないでしょうか。

そして、何よりも現実を無視して絵ばかり描いていると、将来本当に誰からも愛想を尽かされ、一番恐れている結果。
周囲よりも見放され、無視されることも考えなければならないでしょう。

今に生きず、現実を無視して夢ばかり追うことは、人生に対する無責任性として、いずれその結果に本人が問われる時はくるでしよう。

また、3年間依存してきた彼女に対する責任をいかに果たすのか、よく考える必要があると思いました。

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