脳が疲れる

進さん(男性28歳・仮名)と沙里さん(女性25歳・仮名)は結婚1年の新婚夫婦です。
その2人がカップルでカウンセリングを受けに来られました。
カウンセリングの依頼はご主人の進さんからです。

進さんによりますと奥様の理沙さんが、最近抑うつ状態であり心配でたまらないからでした。
また、進さんの言う抑うつ状態とは、進さんが名付けたもので医者にかかっているわけではありません。

そして、私がお会いしたところ理沙さんは抑うつ状態と言うより、元気がない、憔悴しきっていると言った感じでした。
では、何が原因で理沙さんは元気がないか聞いてみました。

「主人はシステムエンジニアです。家に帰ってくるのも深夜、待っていても会話もなく、週1回の休みも寝ているだけ。何のコミュニケ-ションもなく、私は何のために結婚したのか分かりません。新婚1年でこんな状態はひど過ぎると思います」と語ってくれました。

そして、よくよく話しを聞くと進さんと理沙さんは結婚して大阪に出て来られました。それまでは2人とも東京に住んでおり、大阪には親戚や親しい人がおらず、そのため日中理沙さんは淋しさを感じ、夜は夜で進さんの帰宅は深夜、起きて待っていても会話もなく、淋しさに拍車をかけていたのでした。

要するに理沙さんは親密な人が周りに誰もおらず、唯一の進さんとも触れ合いがなく孤独地獄に陥っていたのでした。

ここまで話しを伺ったところアドバイス出来ることはあります。
1 理沙さんについて
ご主人が帰りが遅いのは仕事なのでどうしようもないことです。システムエンジニアはシステム構築のための納期もあり、忙しい職場では自宅に帰ることすら出来ず、ホテル住まいを余儀なくされることもあるようです。
したがって淋しい気持ちは十分に分かりますが、進さんが仕事中はどうしようもないと思います。したがって、日中何か淋しさを紛らわせること、自分が集中して楽しめる何かを見つけることも大切ではないでしょうか。

2 進むさんについて
せっかく理沙さんが深夜まで起きて待っているのですから、会話を促進出来ないのでしょうか。また、週1回の休み。昼過ぎ以降でも良いから理沙さんと一緒に会話を楽しんだり、2人で何か楽しむことは出来ないのでしょうか。

しかし、ここまで話した時、進むさんが言われました。
「脳が疲れているのです」「脳が休息を欲っしているのです」「仕事が終わったあとは疲れきっており放心状態です」「休みの日も疲労感で一杯です」「ですから動けないのです」

「脳が疲れている」私はこの言葉を始めて聞きました。

そう言えば数年前心理学の勉強会でのことです。ある男性(30歳代中頃)と話しをしていました。
彼は1年前に会社倒産で職を失い、数日前に再就職出来たのですが、失業中は妻子を養うために、朝から晩まで24時間ほとんど寝ることもなくアルバイトで働き続けたそうです。
そして、彼は言っていました「この1年間アルバイトをしていた時の記憶がないのです」。

脳は私たちの生命の中枢です。
心、体、神経、記憶等。
働きすぎによる脳が受けるダメ-ジは図り知れないものがあるのかもしれません。

私は脳が疲れるまで働いたことはありませんが、その弊害は取り返しのつかないこともあるかもしれません。

進さんと理沙の2人の問題は、夫婦間のコミュニケ-ションや淋しさの問題ではなく、その根本的原因である進さんの過剰な労働ではないでしょうか。
仕事が夫婦関係を圧迫している、そのように感じました。
また、脳が疲れ、その回復に週に1回の休日も寝て過ごす。システムエンジニアの仕事は進さんにとって大変なやりがいがある仕事なのかもしれませんが、もし夫婦関係と自分の体を大切にするのであれ仕事を変わってもいいかもしれません。

夫婦間の関係に問題が発している時、問題の本質は2人の関係性ではなく、仕事や過剰労働によるストレス、イライラ、疲弊であることもあるのです。