私たちの心を守る仕組み【防衛機制】

防衛機制について

私たちは欲求不満や葛藤の状態、もしくは不安、攻撃性、性的欲求等が過剰に高まりますと、これらを現実に行動化しない為、また、自分の心が病むことを防ぐ為、自分を守り、社会生活を今まで通り健全におくる為に、様々な心の反応を起こします。

それは無意識的に働き、心を守っているのかもしれません。

フロイトはこれを防衛機制、ディフェンス・メカニズムと名付けました。

では、防衛機制の様々を見ていきたいと思います。

1.抑圧

上述した様々な問題となる心の状態を、意識に上らないように無意識へと押さえ込みます。
無意識化されると、その心の問題じたい体験している本人は気がつかないことが多々あります。

例えば、職場で上司から怒られた場合、部下はその上司に対して反撃したいのですが、それでは会社生活はおくれません。
そこで、その攻撃性や怒りを、無意識へと追いやることによって、上司の叱責を受け入れるのです。

また、子供が常に親から叱責されている場面を考えてみましょう。
子供はその家庭で生き残るために、親の叱責を受け入れざるを得ません。
叱責からくる、様々な感情を抑圧します。

自分の感情を抑圧し続けるということは、自分が何を感じているのか等分からなくなり、
あまりにも続く、強い抑圧は、自分のことを自分で考える能力、意志決定能力まで抑圧され、人生の様々な局面で、生きている実感を喪失する事態になるかもしれません。

感情の抑圧が続くということは、何も感じない心の状態になってしまうのです。

2.逃避

抑圧だけでは処理出来ない問題に対して、逃れようとして取られる行動です。
抑圧は感情の封鎖でしたが、「逃避」とは、行動化を伴い、心を守ろうとします。

逃避は次の5種類に分かれます。
a)退避
b)現実への逃避
c)病気への逃避
d)空想への逃避
e)子供時代への逃避

a)退避

不安な場面に直面することを避ける場合です。

例えば学校で大勢の前で発表する機会があることが事前に分かっており、その日は休む等。
不安への直面を避けます。

退避が続き習慣化しますと、人生において永遠に出来ないものを作ってしまいます。
また、あらゆる事に対して退避を行いますと、ひきこもりの状態ともなり、社会と断絶してしまいます。

b)現実への逃避

直面する事態を避けて、本来するべき事とは、直接関係のない別の行動に逃げます。

大学受験に不安を感じて、勉強を避けて趣味に没頭する。
夫婦仲の危機の夫が仕事に没頭して、家に帰ってこない等です。

c)病気への逃避

仮病とは違い、本当に不安等から病気になってしまいます。
不安だけではなく、長時間労働の疲労やストレスからも病気になります。

文献では逃避という言葉が使われているのですが、身体反応の限界と考えれば、事情によっては逃避という言葉は使わない方がいいかもしれません。

d)空想への逃避

空想の世界へ逃げ出します。
ネット、ゲーム、漫画等、架空の世界に入り込んだりします。
これは、自分の空想の領域も含みます。

e)子供時代への逃避

退行と呼ばれています。

おねしょをしたり、赤ちゃん言葉を使ったり、子供がえりすることで、今の問題から逃避します。
子供がえりするということは、不安の対象から守ってくれる何か(母性等)を求めているのかもしれません。

3.投射・投影

自分の弱点、自分のなかの容認しがたい欲求、感情を、相手が持っていることにして責任を転嫁する防衛です。

自分は悪くない、相手が悪い等と思いを強化して、自分の心の平静を保とうとする防衛です。

例えば、自分が嫌いと思っている人に対して、相手が自分を嫌っていると思い込んだり、自分が抱く負の感情を、相手が自分に対して抱いていると思い込みます。

その結果、自分勝手な攻撃心を持つこともあり、ひどくなると妄想の領域に入ってしまいます。

また、恋愛において自分の好きというプラスの感情を、相手も持っていると勝手に思い込み、ひとりよがりな恋愛に夢中になることもあります。

4.取り入れ

両親や周囲が自分に期待する、もしくは期待する点を自分の内部に取り入れ、それに沿う行動を行います。

外からの期待ではなく、それは自分の内に元来あったもの、自分自身のものと見なし、行動する防衛です。
自分がしたくない事でも、親、周囲の期待を自分の中に取り入れ、積極的に実践行動するのです。

これは、周囲からの保護を失ったり、拒否、処罰、孤立化を防ぐために、周囲の期待に沿う行動をすることで不安を解消するのです。

5.同一視

ある特定の対象者の考え方、感情、行動等を無意識的に取り入れ、その対象と同じように振る舞う傾向になる心理過程です。

権威のある人物と自分を同一視して、服装、言動を表面的にまねて偉そうにしてみたりします。
同一視、同一化することにより自己価値をあげる目的もあります。

好きなアイドルと同じように振る舞う、尊敬する先生の真似をする等。

また、よくある例としてDVの夫は子供の頃、父親からひどい虐待を受け恐怖心を抱いていました。
そして、自分が成長すると、その父と無意識のうちに同一視を図り、妻に暴力を振るいます。

6.置き換え

ある人物に向けられた無意識的な欲求や行動を、他の対象に置き換えます。

例えば、最初に攻撃を行った者に対する反撃心、怒りをその場では抑え、その感情を他者にぶつけることにより、不安、罪悪感、欲求不満等を解消します。

子供が先生からひどく怒られた場合、家に帰って先生と親を置き換え、親に当り散らす等。

7.反動形成

抑圧だけでは不十分なとき、抑圧を助ける、おもしとして加えられるものです。

自分の心の不満、欲求にある程度気づいおり、それが表面化することで自己の評価が低下することを恐れ、そのため、まったく正反対の態度や行動をとる防衛機制です。

例えば、ある人に対して憎悪を抱いている時、その憎悪が表面化すると、社会生活をおくるうえでは困る時があります。
反動形成が働き、その対象者に対して、親切に振る舞い、相手や周囲に憎悪を抱いていることを悟られないようにと、社会的に好ましい振る舞いをします。

しかし、あまりやりすぎると、わざとらしいという印象を与えてしまいます。

8.合理化

もっともらしい理屈をつけて自己を正当化しようとします。

本当は欲しいのに理屈をつけて要らないと言ってみたり。
本来すべきことを、こじつけの理由をつけてやらなかったり。

極端に合理化に走りますと、社会的共感を得ることが難しくなり、周囲からは理解不能な人になってしまいます。

9.知性化

自分を守るため知識を振りかざします。

何でも知的に分析したり、知っていることを話して相手を説得、打ち負かそうとします。
過剰に行い続けますと、周囲から共感を得ることがなく、難しい人と思われてしまいます。

10.補償

ある分野での劣等感を補うために、他の分野で優越感を求めます。

勉強が苦手な子が野球に集中したり、営業成績の芳しくない営業マンが茶道を極めようとしたり・・・。
補償行為も逸脱しない限りにおいては、ストレス解消の有効な手段となります。

11.昇華

抑圧された欲求、衝動、意識的に持っている劣等感等が、社会的、文化的に承認される、価値ある好ましい活動となって発現する防衛機制です。

攻撃的傾向や性的欲求による緊張が、学問、芸術、スポ-ツなどで代償的に解消されるのがその一例です。

また、自己の劣等感を社会的に価値あるものに熱中して、その道の大家となる例等、好ましい自己評価の向上でもあります。

さて、防衛機制の基本は抑圧です。

抑圧が不十分、十分に出来ない時に、他の防衛機制が働くのです。

すべての人は皆、何らかの防衛機制を行っており、防衛機制が自分の心を守ってくれます。

参考文献
笠原 嘉 著 不安の病理 岩波新書
初級産業カウンセラ- 養成講座テキスト 社団法人日本産業カウンラ-協会編

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