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心理カウンセリングにAIは役立つのか?その可能性と限界

近年、AI(人工知能)の進化は目覚ましく、様々な分野でその活用が期待されています。
では、私たちの心に寄り添う心理カウンセリングにおいて、AIはどのような役割を担えるのでしょうか?
AIがカウンセリングの現場で活躍する可能性と、その限界について、私の考えをお伝えします。

目次

AIと心理カウンセリングの親和性について

まず、心理カウンセリングにおいて、AIが役立つのか?
私の考えを書きます。

1.クライエントの「微細な変化」を捉える可能性

心理カウンセリングは、ご相談者様との対話を通じて進められます。
カウンセラーはご相談者様のお話を傾聴し、その言葉の奥にある気持ちや状況を理解しようと努めます。

しかし、時にはご相談者様のお話が、事実と少し異なるのではないかと感じることがあります。
そんな時、カウンセラーは確認のための質問をしますが、それ以上の「追及」は、カウンセリングの性質上難しい場面もあります。なぜなら、カウンセリングではご相談者様のお話が尊重されるべきだからです。

ここでAIが持つ可能性の一つとして、人間の微細な変化を検出する能力が挙げられます。
AIは、クライエントさんの脈拍、目の動き、声のトーンといった身体的な情報から、カウンセリングの過程で生じるわずかな、しかし明確な変化を捉えることができるかもしれません。

これにより、クライエントさんが話されている内容について、何か隠している可能性がないかを判断する手助けとなる可能性も考えられます。

しかし、大切なのはAIが「嘘を見破る」ことがカウンセリングの目的ではないという点です。

例えば、ご夫婦のカウンセリングで、AIがパートナーの隠し事を高確率で見抜いたとしても、カウンセリングの場は「嘘を暴く」ための場所ではありません。
もしそのような目的でAIを活用するのであれば、探偵業の方が向いているでしょう。

AIの技術は、あくまでクライエントさんの心の動きをより深く理解するための「情報」として活用されるべきであり、その情報をどうカウンセリングに活かすかが重要になります。

2.ロールプレイにおけるAIの活用:バーチャル空間での実践練習

心理カウンセリングでは、具体的な行動変容を促すためにロールプレイ(役割演習)が用いられることがあります。
例えば、人前で話すことが苦手な方が、その克服を目指す場合。
ロールプレイの講座では、他の参加者とコミュニケーションの練習(模擬演習)を行い、徐々に実際の場面に慣れていきます。

しかし、人前で話すことへの不安や恐怖が非常に強い方にとっては、いきなり「人」とのロールプレイに参加すること自体が大きなハードルとなることがあります。

このような場合、AIが活用されたバーチャル空間が非常に有効な前段階の演習となるでしょう。
AIが生成する仮想の「聴衆」を相手に話す練習をすることで、まるで実際に人前で話しているかのような経験を積むことができます。

このバーチャル空間での練習をクリアした後で、実際に「人」とのロールプレイに進むことで、よりスムーズに現実世界でのコミュニケーションに慣れていくことが期待できます。

このように、AIは心理カウンセリングの補助的なツールとして、クライエントさんが安全な環境で実践的な練習を積む機会を提供できると考えます。

3.フェイク動画がもたらす「記憶の書き換え」効果の可能性

あるドキュメンタリーで見た話ですが、水恐怖症の若い女性が、川を渡ったり、泳いだりすることに強い恐怖を感じていました。

この女性の悩みの解決に、AIが関係するフェイク動画が役立つ可能性が示唆されています。
まず、他の女性が川に入って歩いたり泳いだりするシーンを録画します。
次に、その映像の中の女性の姿を、水恐怖症で悩んでいる女性の姿にAIの技術で加工するのです。

そうすると、まるで水恐怖症の女性自身が、川の中で楽しそうに歩き、遊んでいるかのような映像が生まれます(もちろん、これはフェイク動画です)。

このAI加工された動画を実際に水恐怖症の女性に見せたところ、彼女は「本当に川で遊び、泳いだ経験があるみたい」と語ったそうです。
実際にはそのような経験はないにもかかわらず、彼女の脳が「体験の記憶」としてその映像を認識し、上書きした可能性が考えられます。

このように、AIが生成するフェイク動画は、「記憶の錯誤」をもたらし、今までできなかったことが「できる」という感覚を脳に与えることで、行動変容を促す可能性を秘めているのです。
これは、トラウマ克服や特定の恐怖症に対して、新たなアプローチを提供するかもしれません。

4.AIが心理カウンセラーに代わって、心理カウンセリングを行えるのか

では、AIが私たち心理カウンセラーに代わって、単独で心理カウンセリングを行うことは可能なのでしょうか?

心理カウンセリングとは、一言でいえば「感情労働」です。

AIは、画像認識力や膨大なデータに基づく統計処理、瞬時の判断力においては人間の能力をはるかに凌駕しています。しかし、そのAIが、人間の感情を深く掘り下げ、共感し、個々の心の悩みに対してきめ細やかに寄り添うことができるのかというと、現状では難しいと私は考えています。

心理カウンセリングは、ご相談者様、一人ひとりの心の奥深くを探り、悩みの根本原因を一緒に見つめていくマンツーマンの作業です。そこには、言葉の理解力はもちろん、言葉の裏にある感情を推察する力、そして何よりも「人間としての感情理解力」が不可欠です。

AIは、人が笑っている、怒っているといった表面的な感情表現は画像処理能力によって判断できるでしょう。
しかし、人の心の悩みは、まさに人の数だけ存在し、それぞれの脳によって複雑に作り出されています。その個々の脳が織りなす繊細な感情や思考に対して、AIが懇切丁寧に、そして深く関わることができるとは、私には考えられないのです。

いずれAIがAIなりの感情を持つと提言する科学者もいますが、仮にAIが感情を持てたとしても、それはAI独自の、人間とは異なる種類の感情なのではないでしょうか。

したがって、AIが人間の感情を「理解」し、それに基づいて心理カウンセリングを行うことは、現時点では不可能だと考えられます。
(ただし、問診によって精神疾患の症状を判断するといった、統計処理に優れたAIの強みを活かした活用は可能でしょう。)

私の結論

心理カウンセリングにおいて、AIは強力な「補助ツール」として、ご相談者様の心の変化を客観的に捉えたり、実践的な練習の場を提供したりといった形で、その効果を最大限に発揮できる可能性があります。

しかし、人間の複雑な感情に寄り添い、共に悩み、共に乗り越えていくという、「人間だからこそできるカウンセリング」の根幹を、AIが単独で担うことはできないというのが、私の見解です。

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