破壊的な恋愛関係「モラルハラスメント」:別離が最大の解決策となる理由
これまで「恋愛依存」という心の悩みについて、何度か記事にしてきました。
恋愛依存を抱える方は、自分の存在価値が希薄だと感じていたり、過剰な「見捨てられ不安」を抱えていたりするため、パートナーとの過剰なつながりを求めがちです。
具体的な行動としては、相手に尽くしすぎたり、常に連絡を取り合ってつながりを確認したりすることが挙げられます。
また、その反対に、パートナーを失いたくないあまり、時には暴力で脅すといった極端な行動に出ることもあります。
いずれにせよ、これらは「パートナーと別れたくない」という強い思いから、あらゆる方法を駆使して相手を自分の側に留め置こうとする、「関係性への依存」と言えるでしょう。
今回は、一見するとこの「パートナーを手放したくない恋愛依存者」と似ているように思われがちな、夫婦・恋愛関係における「モラルハラスメント」について深く掘り下げていきたいと思います。

モラルハラスメント:加害者の動機と解決の可能性
「モラルハラスメント」という言葉から、何を連想するでしょうか?様々な定義がありますが、ひと言で表現するならば、「精神的暴力」と言えるでしょう。
精神的暴力とは、相手を認めない、何をしても相手を否定する、馬鹿にする、嫌そうな態度を取る、無視する、といった様々な態度によって、相手の価値を貶め、その精神を追い詰めていく行為です。
さて、モラルハラスメントを「精神的暴力」として捉えた場合、なぜ相手を精神的に追い詰めるのか、その「動機」が非常に重要になります。
心理的な動機があって初めて行動が促進されるからです。

Index
1.育ちの過程が影響する、パートナーを追い込むタイプ
2.「自己愛性人格者」に見られるモラルハラスメントの動機
3.モラルハラスメント解決のために「別れる」という選択肢
1.育ちの過程が影響する、パートナーを追い込むタイプ
アダルトチルドレンの中には、常に自分が正しいという認識のもと、パートナーを否定して精神的に追い詰める傾向がよく見られます。
これは、アダルトチルドレン自身が、親からそのように育てられてきたからです。
子ども時代に親から「親は正しい、お前はダメだ」、「子どもは親の言うことを聞いていればいい」などと否定され、追い詰められるような育てられ方をすると、大人になりパートナーを持った際、自分が親にされたのと同じことを、無意識のうちにパートナーや自分の子どもにしてしまうことがあります。
したがって、この場合の心理的動機は、「自分は正しい」、「自分の言うことを聞け」という、親からの生育の過程で身についた思考パターンであると言えます。
また、対人関係のスキルが十分に育っていないという観点からも、パートナーを精神的に追い込む方法しか知らない、ということもあり得ます。

さらに、恋愛依存者がパートナーを精神的に追い詰め、無力化を図ることで、自分の側から離れられないようにする場合もあります。
この心理的動機は、あくまで「パートナーと別れたくない」という関係性への依存から来ています。
もし、加害者がこうした生育歴や恋愛依存に起因してパートナーを追い込むタイプであれば、カウンセリングが有効であると認識しています。
彼ら自身が自己理解を深め、行動パターンを変える可能性を秘めているからです。
では、モラルハラスメント加害者による、パートナーを精神的に追い詰める心理的動機や背景には、どのようなものがあるのでしょうか。

2.「自己愛性人格者」に見られるモラルハラスメントの動機
マリ=フランス・イルゴイエンヌ氏の著書『モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない』や、イザベル=ナザル=アガ氏の著書『こころの暴力 夫婦という密室で 支配されないための11章』(共に紀伊國屋書店刊)といった文献を参考に、その実態を見ていきましょう。
モラルハラスメントの加害者は、過剰な自己愛性人格者であるとされます。
したがって、彼らは「自分はOK、他者はNO」という人生態度で生きています。
基本的なパターンは「悪いのはすべて相手の責任」であり、また、過剰で変質的な自己愛から、「他人を人間として考えることができないという<能力の欠如>と、自分のためにすべてを利用しようとする<冷たい合理性>が組み合わさってできたもの」とされています。
したがって、自己愛が強く、共感能力のない自己中心的なモラルハラスメント加害者は、パートナーに対して、恋愛感情ではなく自分の価値を高めるための「道具」として接することになります。

では、自分の価値を高めるためにパートナーを必要とするのであれば、パートナーに対して日々どう接するでしょうか?
それは、パートナーの価値を徹底的に貶めることが最も効果的だと考えます。
したがって、彼らはパートナーを認めない、否定する、馬鹿にする、嫌そうな態度を取る、他者と比較して侮辱する、曖昧な自己表現で混乱させる、あえて嘘を言って恥をかかせるなど、様々な手を使うのです。
そして、パートナーを無力化して支配します。
しかも、恋愛依存者が「パートナーを手放したくない」という思いから無力化して縛りつけるのとは異なり、モラルハラスメント加害者はパートナーをいじめることに快感を感じ、これでもかと貶め、精神の破滅に追いやろうとするのです。
そのすべては、自分の自己愛を満たし、自己の優越性を確認するためです。

例えば、恋愛依存者であれば、パートナーがあまりにも傷つき「別れる」とでも言えば、土下座してでも謝り、自分に対して罪悪感を感じるでしょう。
しかし、モラルハラスメント加害者は共感能力に欠けており、パートナーの別れの言葉を聞いても罪悪感を抱くことはありません。
しかし、パートナーがいなくなると、自己の優越性を確認する相手もいなくなり、自己肯定感も低下してしまうため、口先だけで謝ることはあるかもしれません。
しかし、決して反省はしません。
なぜなら、そもそも彼らはパートナーを「一人の個人」として認めていないからです。
パートナーは、彼らにとって必要な「道具」なのです。
モラルハラスメント加害者は、パートナーを侮辱して支配することにより、自分の存在を満たすという「人格障害」のレベルにあると言えます。
しかも、彼らは基本的に頭の回転が速く、演技性も高いのが特徴です。
一見すると、この人がモラルハラスメント加害者であるとは、周囲は信じられないでしょう。
そして、逆にいじめ抜かれ、取り乱しているパートナーの方が、常軌を逸していると誤解されることさえあるのです。

では、モラルハラスメント加害者はどのような人を「いけにえ」として選ぶのでしょうか?
それは、元々自己肯定感が低い人、罪悪感を感じやすい人です。
モラルハラスメント加害者は、最初はパートナーに対して、自分の人生の悲惨さや苦労話を開けっ広げに語り(時には作り話かもしれませんが)、パートナーの同情を誘うパターンがあります。
そして、パートナーはモラルハラスメント加害者を何とか元気づけよう、そばにいてあげようと振る舞い、やがては彼らの「罠」にはまっていくのです。

3.モラルハラスメント解決のために「別れる」という選択肢
では、一度モラルハラスメント加害者と関係を築いてしまった場合は、どのようにすればよいのでしょうか。前述の二人の著者が共通して述べていることは、
「別れること」
これ以外に方法はない、ということです。
そもそも、モラルハラスメント加害者は変質的な自己愛性人格者です。
「自分はOK。他者はNO」という信念が根底にあります。
そのため、カウンセリングなどでモラルハラスメント加害者自身を変えることは不可能に近いと言わざるを得ません。
ですから、モラルハラスメントの被害を受けているパートナーがまず加害者と別れ、そして傷ついた自己肯定感と心を癒し、立て直すしかないのです。

私の心理カウンセリングにおけるモラルハラスメントへの対応について
当カウンセリングルームでは、モラルハラスメントに関するご相談は、基本的に承っておりません。
モラルハラスメント加害者には、その根底に人格の問題を抱えていることが多く、カウンセリングを受けたとしても、心理カウンセラーを打ち負かそうと論戦を吹っかけてくる場合もあるでしょう。
心理カウンセリングの場は、論戦の場ではありません。
自分を振り返り、自分を改め、新しい自分を築くための場です。
したがって、モラルハラスメントの加害者が人格に問題を抱えている場合、カウンセリングを受け承る意味がないと考えております。
また、モラルハラスメント行為を受けて苦しんでおられる被害者の方についても、大変申し訳ありませんが、カウンセリングを承ることは控えさせていただいております。
それは、モラルハラスメント関係性の唯一の現実的な解決策が「別れる」ことだと認識しているからです。

精神疾患マニュアルによる、自己愛性パーソナリティ障害の特徴
参考 自己愛性人格障害者(パーソナリティ障害)の定義を、精神疾患マニュアルの分類と診断の手引き DSM-Ⅳ-TRより参考のため記述します。
自己愛性パーソナリティ障害
誇大性(空想または行動における)、賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる、以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

① 自己重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)。
② 限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
③ 自分が特別であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達に(または施設で)しか理解されない、または関係があるべきだと、信じている。
④ 過剰な賞賛を求める。
⑤ 特権意識、つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
⑥対人関係で相手を不当に利用する、つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
⑦ 共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
⑧ しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
⑨ 尊大で傲慢な行動、または態度。

モラルハラスメントという問題に直面している方は、心身ともに深い傷を負っていらっしゃるかもしれません。
どうか、ご自身の心と身体の安全を最優先に考え、適切な支援を求めることを躊躇しないでください。