介護離職:親への想いと、その先に潜む「孤独」という問題
親の介護のために、現役世代の会社員が仕事を辞め、介護に専念する「介護離職」。
毎年およそ10万人もの方がこの選択をされているといいます。
もちろん、国として介護離職対策が進められていることも承知していますが、介護離職を選ばれた方が、その後の人生で「本当にあの決断で良かった」と心から思える日々を送れているのか、私は懸念を抱くことがあります。

家族が複数人で暮らしていれば、介護離職の問題は生じにくいかもしれません。
しかし、ご自身と親御さんの二人暮らしの場合、親の介護が必要になった時、どうすれば良いかという大きな問題に直面するでしょう。
親孝行な気持ちから、親を老人ホームなどの施設に入れることに抵抗を感じ、「自分が親にとって最善を尽くしたい」と考え、会社を辞めて介護の道に進む方も少なくありません。
しかし、介護離職が本当に最良の選択であるのか、私は心配になる時があるのです。
介護離職と社会からの隔絶:そのリスクとは
Index
1.介護離職後の生活:貧困と孤独のリスク
2.親の認知症:尽きない介護の苦悩
3.そして、深まる孤独の世界

1.介護離職後の生活:貧困と孤独のリスク
「親が施設入所に否定的だから」、「親の意向を尊重したい」、「親への恩返しのために介護に専念したい」。
介護離職を選択される動機や心理は様々でしょう。
しかし、介護離職に踏み切ると、まず直面するのが収入の問題です。
潤沢な資産があれば別ですが、そうでない場合、貯蓄を切り崩しながらの介護生活が始まります。
また、支援してくれる人がいないケースも少なくありません。
親御さんがヘルパーの訪問を拒否するなど、外部からの支援を断ってしまうと、親子二人きりの孤独な世界に閉じこもってしまう可能性があります。
近所付き合いもなく、公的な支援も受けないとなると、人との接点が途絶え、悩みを打ち明けられる相手もいなくなり、社会から孤立してしまう危険性があるのです。

2.親の認知症:尽きない介護の苦悩
介護離職を選択するケースでは、親御さんが認知症を患っていることも少なくありません。
認知症は進行することが多く、特に介護者にとってつらい現実が待っているのは、親が子どもの存在や、自身の存在すら忘れてしまうことです。
自分が誰であるかわからなくなったり、中には怒りっぽくなったりすることもあると聞きます。
もし、親御さんが認知症のためにこのような状況になったら、親のために離職までしたご自身は、どのように感じるでしょうか。
親孝行のつもりで仕事を辞め、収入も途絶え、その上、親は自分のことを忘れ、徘徊したり、大声で怒鳴ったりする。
このような状況が続けば、大きなストレスを抱え、「親のためとはいえ、会社を辞めて介護に専念するのではなかった」と、ご自身の決断を後悔する気持ちが芽生えることもあるかもしれません。
そして、この親子二人きりの状態が、親御さんが旅立つまで、何年にもわたって続くのです。
介護離職と親の認知症の問題は、本当に難しい問題です。

3.そして、深まる孤独の世界
介護離職により、親御さんの介護に専念する生活は、親中心、介護中心、そして家庭中心となり、社会との交流が途絶えてしまいます。
これは、孤独な世界に生きることを意味します。
そして、もし親御さんが亡くなり、一人になった時、その孤独はより一層深まるでしょう。
何年もの間、親の介護に時間を費やし、社会との繋がりが断絶してしまうと、その後の社会復帰も困難になる可能性があります。
職歴のブランクが長くなれば、再就職も難しくなるかもしれません。
つまり、収入を得る手段さえ失ってしまう恐れがあるのです。
大人ですから、相談すれば何とかなることは分かっていても、なかなか恥ずかしさや、あるいは気力そのものが失われ、「人生などどうでもいい」と投げやりな気持ちになってしまい、相談する勇気さえ湧いてこないこともあるかもしれません。

介護離職の決断が、最善であったのか、あるいは最悪なものになってしまったのか。
それは、それぞれの親子の状況によって様々でしょう。
しかし、親孝行のための介護離職には、大きなリスクが潜んでいることを、どうか認識してください。
介護離職の問題は、中高年のひきこもりの問題とも直結する、社会的な課題でもあります。
もし、ご自身一人ではどうしようもないと感じた時は、行政などの公的機関に相談してみてください。誰が悪いわけでもないのですから。
そして、必要であれば人生をリセットし、新たな一歩を踏み出す勇気を持つことも大切です。