すれ違う夫婦のコミュニケーション:「共感」と「アドバイス」の落とし穴
「夫が話を聞いてくれない」。
夫婦関係の悩みとして、女性からこのような訴えを耳にすることは少なくありません。
しかし、その男性側は「話を聞いていない」という自覚がないことがほとんどです。
なぜ、このような認識のズレが生じるのでしょうか?

夫婦関係を蝕むコミュニケーションのズレ:その原因は?
Index
1.夫婦のコミュニケーションは共感が最重要・アドバイスは後
2.結婚後の夫婦の生活環境の変化がコミュニケーションに影響する
3.ビジネスと夫婦のコミュニケーションは「質」が異なる
1.夫婦のコミュニケーションは共感が最重要・アドバイスは後
夫婦カウンセリングの現場では、「夫が話を聞いてくれない」という訴えが頻繁に聞かれます。
特に、結婚してある程度の期間が経ったご夫婦によく見られる傾向です(若いカップルの間では、比較的少ないようです)。
妻が夫に何かを相談したい時、多くの場合、彼女はその出来事に対して「どう感じたか」を夫に聞いてもらいたいと願っています。つまり、体験した出来事とそれに伴う感情を、まずは夫に「受容してほしい」のです。相談の形をとってはいますが、何よりも先に「ただ話を聞いてほしい」という気持ちが根底にあります。
ところが、夫は相談に対して「それなら、こうすればいい」、「それはこういうことだ」と、即座にアドバイスや解釈をしようとする傾向があります。

話を聞いてもらい、感情を共感し、受容してほしい妻と、すぐに解決策を提示しようとする夫。これではコミュニケーションが成立しないのは当然です。
まさに「すれ違う夫婦のコミュニケーション」と言えるでしょう。
妻はじっくりと話を聞いてほしいのに、夫はすぐにアドバイスや解釈をして話を打ち切ろうとしているように見えてしまうのです。
では、なぜこのような現象が起きるのでしょうか?

「妻は感情的で、夫は論理的だから」という単純な理由なのでしょうか?
それとも、夫は妻の話に対して問題解決の姿勢で臨み、解決を図ることで妻に対し優位性を示しているのでしょうか?
しかし、ここで不思議なのは、夫婦も元を辿れば、若い頃はカップルだったということです。
カップルの時にも、このようなコミュニケーションギャップは起こっていたのでしょうか?
そして、もし起こっていなかったとすれば、このギャップの問題はなぜ今、表面化しているのでしょうか?

考えられることは、以下の3点です。
A. すれ違うコミュニケーションの問題は、カップルの時にもあったが、女性が気づいていなかった。
B. 男性の聞く態度が変わった。以前はきちんと話を聞いていたが、今はアドバイスや解釈のみになった。
C. 女性が話すことを控えていた、あるいは話す相手が夫以外にもいた。
これらの可能性のうち、私はBとCが問題の本質ではないかと考えています。
男性は結婚前、女性に嫌われたくないという気持ちから、女性の様々な話を真摯に受け止め、耳を傾けていたのではないでしょうか。
また、恋愛においては、恋人の話を聞くこと自体がプラスの刺激となり、楽しかったのかもしれません。

2.結婚後の夫婦の生活環境の変化がコミュニケーションに影響する
やがて結婚し、しばらくすると、妻とは毎日顔を合わせるのが当たり前になり、新鮮さが失われていくことがあります。
加えて、日々の職場での疲労から、家に帰ってから妻の話をじっくり聞くことが、夫にとっては大きな負担になっているのかもしれません。
疲れている時は、自分の趣味に没頭したい、早く一人になりたいという気持ちが優先されることもあるでしょう。

一方で、女性側から考えてみると、独身時代は恋人だけでなく、友人や家族にも様々な話をすることができ、デート中に込み入った話をする必要があまりなかったのかもしれません。
しかし、結婚を機に、友人から離れたり、実家を離れたり、あるいは仕事を辞めたり、転居したりすることで、心の内を打ち明けて話せる相手が周囲からいなくなり、話せる相手が夫だけになることもあります。
様々な事情があるのでしょうが、夫婦間のコミュニケーションに限らず、あらゆるコミュニケーションにおいて最も大切なことは、「相手の話を聞くこと」だと私は考えます。
「話を聞く」ということは、単に相手の声を受動的に聞くことではありません。
それは、相手が話すことに心から興味を持ち、その内容を深く理解しようと努め、そして、その時の相手の感情までをも汲み取ってあげる、まさに「共感する」ことなのです。
たとえ相手が「相談」を持ちかけてきていたとしても、その心の奥底には「まずは自分の話を聞いてほしい」という切実な願いがあるはずです。
この感覚、男性の方々は理解できますでしょうか?

3.ビジネスと夫婦のコミュニケーションは「質」が異なる
ビジネス(仕事)に長く携わっていると、常に時間の制約の中で早期の問題解決を図る必要があり、アドバイス、解釈、指導といったアプローチが仕事上の相談に対しては非常に有効に機能します。
しかし、それは効率的・効果的な業務遂行のためのやり取りであり、「人と人との心の交流」とは質が異なるものです。
通常の人間関係におけるコミュニケーションは、必ずしも効率的・効果的な早期問題解決だけを求めているわけではありません。むしろ、それよりも先に、まずは話を聞いてもらい、自分を「分かってほしい」という気持ちが優先されます。
もちろん、話の内容によってはアドバイスが必要な時も多々あります。
しかし、そのアドバイスが本当に有効に機能するのは、相手との間に「信頼関係」がしっかりと築かれている場合に限られます。
その信頼関係の根底にあるのは、「人としてお互いが結びついているか」、つまり「相手は自分のことを理解しようとしてくれているか」という感覚です。

アドバイスを受ける前に、十分に話を聞いてもらい、自分の感情を受け止めてもらったという実感がない限り、どんなに有効なアドバイスをもらったとしても、「話を聞いてもらえなかった」、「自分の気持ちを否定された」と感じてしまうことが少なくないのです。
例えば、カウンセリングの場面で、ご相談者様が十分に話し終えていないのに、カウンセラーが一方的にアドバイスや解釈を始めたらどうでしょうか?
おそらくご相談者様は「話を聞いてもらえなかった」と感じ、不満を抱くでしょう。
カウンセリングに限らず、日々のコミュニケーションにおいても、相手の話を聞き、その感情を受け止めることの重要性は、計り知れないほど大きいのです。
あなたの夫婦間のコミュニケーションは、今、どのような状態にあるでしょうか? お互いの話に「共感」できていますか?