子供の前で泣く親が、子供に「罪悪感」を植え付ける問題
なぜ、親は子供の前で泣くのか?
子供は常に、自分に対する親の反応や態度を敏感に意識しながら成長していきます。
特にアダルトチルドレンの方は、この傾向が強いと言われています。
親が子供に対し、褒める、喜ぶ、かわいがるなどの肯定的な反応や態度で接することは、その後の子供の健全な成長にとって大きな糧となります。
しかし、常に無視、拒否、怒るなどの否定的な態度で接し続けられると、それは子供の存在否定にも繋がり、慢性的な不安感を抱くなど、子供の成長にマイナス面しかもたらしません。
そして、常に親が子供に対して不安感を与えるような態度で接することを、心理的虐待と呼びます。

今回は、この心理的虐待の中でも、子供に強烈な罪悪感を植え付ける行為、すなわち「子供の行ったことに対して親が泣く」という行為について掘り下げていきたいと思います。
当然、この「泣く」という行為の背景には、親の悲しみや怒りの感情があります。
では、なぜ親は子供の行為に対して、泣くという反応態度をとるのでしょうか。
これには、親が「子供の立場に立って共感した結果、悲しみを感じる」場合と、「子供の行為が親の主観・価値観に反し、期待に沿わず、悲しみや怒りによって泣く」場合の2つが考えられます。
まず、親が「子供の立場に立って共感する」ケースについてです。
これは、純粋に子供のことを心から思ってのことでしょう。
例えば、子供が怪我をして、それを見た親が「痛そう、大丈夫かな」と心配し、悲しみのあまり泣くような場合です。
この場合、泣いている親の姿を見て、子供が親に対して過剰な罪悪感を抱くことはあまりありません。これは健全な親子関係と言えるでしょう。

Index
1.親の期待を満たせない子供の前で泣き、罪悪感を植え付けるケース
2.子供の成績が悪く泣く親(私の例)
3.泣く親が子供に与える心理的影響:「何かあれば自分が悪いのでは」という思い込み
4.子供の前で泣く親は未熟な自己を改めること
1.親の期待を満たせない子供の前で泣き、罪悪感を植え付けるケース
では、子供の行為が親の主観・価値観に反し、期待に沿わず、悲しみや怒りによって親が泣く場合は、どのようなことが考えられるでしょうか。
例えば、子供が友達と遊んで帰ってきた時間が、門限よりたった5分遅れただけで親が泣く(親は「門限は守るべき」という価値観を持っているため)。
あるいは、子供が運動会の短距離走で最下位になったことに対して親が泣く(親は「競争では1位を取るべき」という価値観を持っているため)など、様々なケースがあります。
親の一方的な価値観や主観に反し、期待に反しているというだけで、親が子供の行動に反応して泣くとしたら、これは子供にとっては到底理解できないことであり、心に大きな混乱をもたらします。
そして、なぜ親が泣いているのかはっきりとは分からないものの、「自分の行為が親を泣かせてしまった」ということを感覚的に理解し、親を泣かせた自分に罪悪感を抱くのではないでしょうか。
子供にとって、親は大好きで、絶対的な存在です。
その親を泣かせてしまった時、子供が抱く罪悪感は相当高いものになるでしょう。

2.子供の成績が悪く泣く親(私の例)
私自身の経験をお話ししましょう。
親が子供の行為に反応して泣くパターンとして、子供のテストの点数(成績)に反応して泣く、ということがあります。
親はなぜ、子供のテストの結果や点数ごときで、そこまで過剰に反応して泣いたのでしょうか。
そこには、親自身の人生に対する歪んだ価値観が大きく影響しています。
例えば、「テストの点が良くない、学歴が高くなければ、一流企業に入ることができず、この先の人生は真っ暗だ」といったような、極端な認知です。
したがって、親からすれば、テストの点が悪い、勉強のできない子供は、将来「お先真っ暗なダメ人間」になる、と認識してしまうのでしょう。呆れてしまうような考え方ですが。
親は、自分勝手な自身の考え方に基づき、子供の将来を案じ、子供に対してテストの点が良く、勉強ができることを期待します。
しかし、子供が取ってきたテストの点数が親の期待に反した時、親は怒り、失望し、子供の人生の将来への不安を感じて、怒り、そして泣くのです。
では、子供(私)の側から見て、自分が取ってきたテストの点数を見た親が泣くということを、子供はどのように体験するのでしょうか。
振り返ってみましょう。
子供は学校からテストを返してもらい、その点数は低かったとします。
子供は何の疑問も問題意識もなくテストを家に持って帰ってきます。
そして、親にテストを見せます。
ところが、テストの点数を見た親の態度は一変し、怒り、泣くという反応を見せつけられるのです。

子供は、テストの点数が悪いということが、なぜこのような親の反応を引き起こしたのか理解できません。
そもそも、小学校1年生の時など、テストの意味、点数の意味もきちんと理解していなかったのです。
私は小学校1年生の時、テストの点数(もしかしたら成績表かもしれません)を見た母親が泣いたのを目の当たりにしましたが、たぶん当時の私は訳が分からなかったのでしょう。
その後、家の庭を小さな自転車でグルグル回っていた記憶があります。
テストの点を見た親が最初に泣いた日、おそらく私は訳が分からず、混乱した状態で一日を終えたと思います。
しかし、母親が私のテストの点数を見て泣いた。
その時の母の泣き声、息の詰まるような空間。
バツの悪さ、そして、なぜか感じた罪悪感。この記憶は、今でも鮮明に残っています。

3.泣く親が子供に与える心理的影響:「何かあれば自分が悪いのでは」という思い込み
また、あまりにも、子供が行った行為への反応として親が泣く日々が続くと、子供に過剰な罪悪感を与え続けます。
それは「自分が親を泣かせている」という罪の意識です。
そして、泣いている親にどう接していいか分からない無力感を持つかもしれません。
(怒られている時は耐えればいいのですが、泣かれると対応の仕方が分からず、混乱してしまうのです。)
親に対して罪悪感を背負った子供は、何かあると「自分が悪いのではないか」と、過剰に親の顔色を伺うようになります。
親が鼻をすすったり、ため息をついただけでも「自分が何か悪いことをしたのか」と感じてしまうのです。
常に親に対して罪の意識を持ち続けてしまう状態です。
このような無用な罪悪感は、自分自身を苦しめます。
そして、罪悪感から親を優先する思考や感覚を持つこともあります。
「何事も自分のために親が苦しんでいる」と考えたり、「自分が我慢して親を楽にさせなければ」と、成長するに従い、親を優先した思考や感覚を持ってしまうこともあるのです。

4.子供の前で泣く親は「未熟な自己」を改めること
さて、問題の本質は明らかです。
問題は明らかに親にあります。
それは、先述しましたように、親が子供の前で泣く、という行為が、親自身の一方的な価値観や主観に基づいているからです。
子供が自分の期待を満たさない、あるいは期待に沿わないからといって、子供の前で泣いても、子供にとっては良いことは何一つありません。
子供は成長しても、何かあると罪悪感が働き、「自分が悪いのではないか」と、過剰に自己関連付けをしてしまい、生きづらさを抱えてしまいます。

あるいは、親が泣くということに苦しめられ続けた結果、泣く親に対して憎しみの感情が増え、親が泣くという行為そのものに対して不快感や拒否感を抱いてしまうこともあります。
その結果、その後、本当に悲しくて泣いている人に対しても、冷淡に接したり、軽蔑的な態度を取ってしまう、心の冷たい人になってしまう可能性すらあるのです。
子供の前で泣くことによって、子供に罪悪感を植え付け、子供を支配・操作する行為は、子供にも親にも、そして親子関係にも幸せをもたらしません。
健全な親子関係とは何か。
改めて、心理学やカウンセリング、親業勉強会などを通じて、自分自身を見つめ直すことが大切です。