後輩の「見え透いた言動」に感じる反感の正体
1.「わざとらしい」後輩への戸惑い:その感情の裏にあるもの
今回は、事務職として会社に勤める優子さん(25歳、仮名)からのご相談です。
短大卒業後、貿易会社で事務の仕事をしている優子さんを悩ませているのは、一つ年下の後輩、広子さん(仮名)の存在でした。
優子さんが広子さんに対して抱いている具体的な悩みは、以下の通りです。
「広子さんは、どうにも薄っぺらいんです。笑顔もそうだし、むしろ『わざとらしい』と言った方がしっくりきます。誰にでも薄っぺらな笑顔を振りまいているのを見ると、正直うんざりしてしまいます。それに、上司が何か意見を言うと、すぐに『私たちもこうしないといけないですね!』なんて、まるで自分の意見のように上司の目の前で発言するんです。上司に気に入られたい、という魂胆がまるで見え透いていて、本当にうんざりします」

さらに話を聞くと、優子さんは貿易推進事務1課の事務リーダー、そして広子さんはサブリーダーだそうです。
優子さんによると、広子さんは日頃から「リーダーに昇格したい」と周囲に公言しており、そのために上司からの評価が絶対だと考えているようです。
つまり、優子さんが広子さんに対して抱いている不満は、主に以下の3点に集約されます。
- 広子さんの「わざとらしい笑顔」が気に入らない。
- 広子さんが上司の言動をすぐに自分の意見として話すことが気に入らない。
- 広子さんが昇格を強く望み、そのための見え透いた行動をとることが気に入らない。

2.カウンセリングにおける「第三者の問題」と、その深掘り
カウンセリングにおいて、相談者様の目の前にいない第三者が関係する問題を扱うのは、非常に難しいことです。
なぜなら、その話はすべて相談者様の主観で語られるため、「本当にそうなのか?」という客観的な検証が難しいからです。
しかし、このままではカウンセリングが深まりません。
そこで、私は優子さんが「気に入らない」と感じる広子さんの行動について、一緒に深く掘り下げて考えてみました。
カウンセラーとして、広子さんの「わざとらしい笑顔」や「上司の言動を真似て自分のものとする」行動、そして「強い昇格への期待」は、ある一つの「信念体系」によって説明がつくのではないかと推測しました。それは、「認められなければ価値がない」という信念です。

まず、笑顔について考えてみましょう。
私たちは笑顔から何を連想するでしょうか?
笑顔はコミュニケーションの一つであり、親しみを表現したり、「よろしくお願いします」、「私はあなたの敵ではありません」といった非言語のメッセージを伝えます。
したがって、笑顔で人に近づくことは、仲間になりたい、あるいは快適な時間を一緒に過ごしたいという期待があるからです。
しかし、何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。
やりすぎは、かえって人の反感を買うことが多々あります。
過剰な笑顔は、周囲の反感を買うことになりかねません。
優子さんも「あの子の笑顔が嘘っぽいのは皆感じています」と言っていました。
自然な笑顔に対し、過剰な笑顔は作りもので不自然に見えるため、周囲から反感を買うのは必然かもしれません。

では、広子さんの笑顔は何を意味しているのでしょうか?
それは、周囲に対する自己存在のPRかもしれません。あるいは、上司から高い評価を得るため、あるいは認められたいがために、「明るい自分」を演じているのかもしれません。
いずれにしても、それは「外から自分を良く見せるための戦略やスキル」と捉えることができるでしょう。
次に、広子さんがすぐに上司の意見を自分の意見として話すことについて考えてみます。
単純に考えれば、昇格したい広子さんが、上司の意見を自分のものとして取り入れることは容易に想像できます。
しかし、もっと深く考えると、「認められなければ価値がない」と思っている人は、常に自分より上の立場の人(いわゆる権力者)から評価を得ようと一生懸命になります。
そのため、常に自分を認め、価値を与えてくれる権力者の反応に敏感になり、無意識のうちにその権力者の意見を取り込むことを習慣付けているのかもしれません。

そして、問題は「誰にこのような方法を習ったか」という点です。
人間の行動パターンは、幼い頃に形成されることが多いものです。
もしかしたら、広子さんの親は、広子さんが親の期待通りのことをした時にしか、広子さんを認めず、褒めなかったのかもしれません。
親から認められることは、子どもにとって何よりも大切なことです。
そう考えると、大人になった広子さんが、幼い頃と同じ行動パターンで、今度は親の代わりに上司に認めてもらおうと無意識に振舞うことは、十分に考えられます。
このように考えると、昇格という目に見える評価によって、幼い頃からの自己価値付けを達成したいと思うのは、ある意味当然のことなのかもしれません。
広子さん自身も、幼少期からの「自己存在認知の方法」で、今も頑張り続けているのかもしれません。

さらに、これは深読みかもしれませんが、親からあまり認められなかった広子さんが、強い者、つまり上司の態度や言動を自分と同一視することによって、自分自身を強い者と認識し、無意識に自己価値を高めている、という可能性も考えられます。
いずれにしても、広子さん自身が、決して「豊かな子ども時代」を過ごしてこなかったのかもしれません。
このように考えてみると、優子さんの広子さんに対する見方も、少し変わってきたようです。

3.問題の焦点は「自分自身」に:優子さんの感情の裏側
さて、広子さんについての話は、一旦ここまでにしておきましょう。
なぜなら、広子さん本人がここにいない以上、心理学的には納得できる分析だとしても、すべては私たちの「想像」に過ぎないからです。
そもそも、今回の問題の本質は、広子さんではなく優子さん自身にあります。
なぜ優子さんは、そこまで広子さんのことを「気に入らない」と過剰に反応するのでしょうか?
反応しているのは優子さん自身ですから、これは優子さんの「問題」となるのです。

この問題について、優子さんに質問してみました。
「確かにそうですね。私が今、広子さんについて思い出したのは、彼女はサブリーダーで、昇格したら私と同じリーダー職になる、ということです。でも、同じ課でリーダーは2人も必要ありませんよね。もし、彼女が昇格したら、私はどうなるのでしょうか…?」
「彼女は私にとって脅威であり、彼女が昇格することを考えると、不安なんです」
優子さんにとって、広子さんの昇格は「不安要因」であったことが明らかになりました。
しかし、これはまだ「表面上の問題」に過ぎません。
次回は、優子さんが広子さんのことを「気に入らない」と過剰に反応する根本的な理由、その「本当の問題」について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。