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友人の数に潜むワナ:自己価値と劣等感

影彦さん(33歳・仮名)は、5年前に会社を退職し、2年前に念願の癒しグッズショップのオーナーとして起業しました。
数年前からは複数の社会人サークルに参加し、多くの友人や仲間を作ってきたそうです。

今では休日のほとんどを友人たちと過ごし、その社交性を発揮して充実した日々を送っているように見えました。仕事も独立し、好きなことを仕事にしているという達成感も感じているようでした。

しかし、そんな影彦さんが深刻な自己の無価値感と劣等感を抱え、カウンセリングを受けに来られたのです。人間関係も良好で、自分の望む仕事を手にしているにもかかわらず、なぜこれほどまでに自分に劣等感を抱いてしまうのでしょうか?

友人の数で自己価値を測るワナ

影彦さんの話から見えてきたのは、「友人の数によって自己価値を上げようとするワナ」でした。

Index
1.多くの友人との比較が劣等感をもたらす
2.幼少期から続く比較による自己価値の低下
3.友人の多さがもたらす二律背反:自己価値の向上と劣等感

1.多くの友人との比較が劣等感をもたらす

影彦さんは言います。

「仲間や友達は人より多いと思います。その大半は社会人になってからサークルで知り合い、その70%は独立してビジネスを展開しています。私も好きな癒しグッズのオーナーとして起業しましたが、実際は店舗を構えず、ネットでの販売です。売上は月に8万円程度。空いた時間はアルバイトをして生計を維持しているのです」

そして、彼は続けてくれました。「仲間は皆、独立してオーナーとして成功しています。皆はそれなりの地位を築いているのです。それに比べて僕はオーナーとは言いながらも散々です。仲間が多いのはそれはそれでいいと思うのですが、1人になると自分だけ置いていかれた感じがして、劣等感や自分には価値がないと感じてしまうのです」

影彦さんは、自分の現状と友人たちの状況を比較し、ご自身を卑下しているようでした。

私は彼に尋ねました。「お友達が大変多いようですが、満ち足りていますか?」

影彦さんの答えはこうでした。
「満ち足りているというより、孤独を感じずにすみます。僕は1人で家にいると寂しくてどうしようもないのです。それに、仲間がたくさんいると自分が満たされます」

2.幼少期から続く比較による自己価値の低下

その後のカウンセリングで分かったのは、影彦さんが幼少期の生育歴の影響で、自分に対して相当な劣等感を持っていたことでした。

幼い頃、ご両親が影彦さんと周りの子どもたちを比較し続け、影彦さんに強い劣等感を植え付けてしまったのです。

劣等感を強く持つ人は、自己受容ができておらず、自分と他者を比較して、自分に厳しい評価を下す傾向があります。影彦さんも友人と自分を比較し、ご自身を厳しく評価していました。

そして、生まれつきの劣等感に加えて、友人との比較によってさらに自己価値の低下を招き、自分に対して深い無価値感を抱いていたのです。

しかし、影彦さんの自己評価は果たして妥当なものなのでしょうか?

友人は「それなりの地位を築いている」と言われていますが、実際の経営状況は分かりません。賑わっているように見えても、実態は大赤字かもしれません。しかし、影彦さんはこのような現実的な観点から物事を見て評価するのが苦手なようでした。友人たちは成功していると思い込み、その思い込んだ友人像と自分を比較しているのです。

ですから、影彦さんの「自分なんて」という気持ちや、劣等感、自己無価値感は、必ずしも妥当な評価に起因しているわけではないのです。

3.友人の多さがもたらす二律背反:自己価値の向上と劣等感

さらに、影彦さんが多くの仲間を持つことにこだわっていることが分かりました。
それは、大勢の人とつながっていることが寂しさを紛らわし、安心感をもたらすということ以上に、たくさんの仲間や友人を持つことが、ご自身の劣等感や無価値感を補償してくれるからなのです。

これは、心理学でいう「コレクターの心理」にも通じるものがあります。
物を収集することで満足感を得る心理です。

萎縮した自己に対して自我拡大欲求が働き、この欲求から物を集めることで自分を満たし、満たされない思いや劣等感などを補おうとするのです。

影彦さんの場合、物を集めるわけではありませんが、「いかに多くの人と知り合い、つながっているか」に大変な価値を置いています。人とつながりたいという気持ち以上に、豊富な人脈を持つことが彼の自我拡大欲求を満たしているように感じられました。多くの知り合いを持つ自分に価値を見出しているのです。

しかし皮肉なことに、彼が自分に対して否定的な気持ちや劣等感を持つうちは、彼の自我拡大欲求を満たすはずの仲間や友人と自己を比較してしまい、かえって落ち込みや、劣等感、自己無価値感を抱いてしまうのです。

自分と他者を比較しなければ全く問題ないのですが……。

今の影彦さんは多くの友人や仲間に囲まれています。
集まりの幹事や世話役も積極的にこなしています。
私のような普段一人でいることが多い人間からすると、「気遣いで疲れないのかな」と思うほどです。

また、心理的な問題としては、幹事や世話役を果たすことで、他者から必要とされる自分に自己価値を求めているとすれば、これはこれで、ご自身を「お留守」にして他者志向になっている点で問題があります。

いずれにせよ、影彦さんの根本的な問題は、生育歴の中で得た強固な劣等感にあります。この劣等感からくる寂しさや無価値感を、仲間や友人、人脈の多さで自己価値を満たそうとしている限り、抜本的な改善にはつながりません。

あなたは、友人の数で自分の価値を測っていませんか?

影彦さんのように、多くの人とのつながりを求める背景には、幼少期からの劣等感や自己肯定感の低さが潜んでいることがあります。

もし、あなたも「もっと友達がいれば」、「あの人みたいになれたら」と感じることがあるなら、それは内なる自己評価の課題を示唆しているかもしれません。

本当に大切なのは、人とのつながりの「数」ではなく、自分自身が「自分」として満たされているかどうかです。

あなたは、ご自身の価値を何に置いていますか?

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