「育て方が悪かった親を謝らせたい」という願いの先にあるもの
育て方が悪かったと思う親を謝らせて得るものとは何か
Index
1.親への謝罪要求、それは本当に可能でしょうか?
2.親が子育てについて謝罪しない、その背景にあるもの
3.親の謝罪が、あなたの人生を本当に変えるのか?
4.親を謝らせることが、本当に必要なことなのか?
1.親への謝罪要求、それは本当に可能でしょうか?
アダルトチルドレンとしての生きづらさを抱え、カウンセリングにいらっしゃる方々から「今までのことを親に謝ってほしい」というお気持ちを伺うことが少なくありません。
これは、現在の生きづらさの根源には親の養育態度があったと感じ、親にそのことを認め、謝罪してほしいという切実な願いの表れだと思います。
しかし、果たして親に謝罪させることは、現実的に可能なのでしょうか。

もし、親に謝罪を求めるとするならば、それは「あなたの育て方が悪かったから、私はこんなに苦しんでいる」と、親を責める姿勢になりがちです。
自分の生きづらさと子どもの頃の親子関係や養育態度を結びつけ、論理的に訴えかけたとして、親がそれを受け入れ、素直に謝罪するでしょうか。
その難しさには、いくつかの理由が考えられます。

2.親が子育てについて謝罪しない、その背景にあるもの
親が子どもに対して、過去の養育について謝罪することを避ける背景には、様々な心理が働いています。
a)親自身もまた、同じように育てられた可能性
まず、親自身もまた、自身の親から似たような育てられ方をしてきた可能性が高い、という点です。
つまり、親自身も機能不全家族の出身であり、アダルトチルドレンである可能性が考えられます。
もしそうであれば、親の立場からすると「自分も同じように育てられてきた。なぜお前だけが、それを乗り越えられないのか」という反論が出てくるかもしれません。
親は、自分が親から受けた養育に耐え、成長してきたという経験が基準になっているため、子どもの訴えに耳を傾けることが難しいのです。
人は、自分自身の経験を物事の基準としがちで、それが「自分は正しい」という認識に繋がります。

b)子育てに対する親のプライドと自負心
次に、子育てに対する親としてのプライドと自負心です。
子どもを育てるために、経済的な苦労や家庭の維持など、親は並々ならぬ努力と犠牲を払ってきたと感じています。
アダルトチルドレンの親に限らず、ほとんどの親が、この子育てに対する強い自負心を持っているのではないでしょうか。
そのような親に対し、子どもが突然、自身の生きづらさと親子関係を結びつけて議論を始めれば、親は戸惑い、自身の自負心を傷つけられたと感じるかもしれません。
たとえ親が、自分の子どもが生きづらさを抱えていることに気づき、自身の養育態度に問題があったかもしれないと考えていたとしても、子どもから正面切って責められれば、親は自己防衛のために反論したり、心を閉ざしたりするでしょう。
人は誰しも、非難されていると感じると、自動的に自分を守ろうとするものです。

3.親の謝罪が、あなたの人生を本当に変えるのか?
これらの理由から、親に過去の養育について謝罪させることは、極めて困難なことだと考えられます。しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。
もし、仮に親が謝罪したとして、あなたの人生は本当に変わるのでしょうか?
それが、あなたの人生を豊かにすることに繋がるのでしょうか?
もしかしたら、親が謝罪することで、親子関係の問題が解決し、生きづらさも改善するのではないかと期待しているのかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか。
親が自身の非を認めて謝罪すれば、あなたは「自分は正しかった」、「親は間違っていた」という認識を持つことになります。
そして、もしこの「自分は正しく、親は間違っている」という図式を常に持ち続けて親に接するならば、それは一種のパワーゲームになりかねません。
親もまた反発し、理解し合うことのない争いが延々と続く可能性も考えられます。

4.親を謝らせることが、本当に必要なことなのか?
過去の養育の問題について、親に謝罪させること。それは、本当にあなたにとって必要なことなのでしょうか。
しばしば心理カウンセラーが「親の気持ちを考えたことはありますか」と問いかけることがあるようですが、その問いかけだけで、抱えている生きづらさが回復したり、親子関係が劇的に改善したりするわけではないでしょう。
しかし、親もまた苦労をしてきたこと、そして親自身もアダルトチルドレンである可能性が高いことを考慮すると、これは個々の親子の問題というよりも、アダルトチルドレンの「世代間連鎖」というシステムの問題として捉えることができるかもしれません。
誰のせいで自分が生きづらさを抱えているのか、犯人探しを続けることは、時に問題を複雑化させてしまいます。

最終的に、生きづらさを抱えているのは「あなた自身」の問題です。
そして、その生きづらさをしっかりと自分自身が受け入れ、自分の問題として解決していくことが何よりも大切なのです。
私たちは、他人を操作したり、変えたりすることはできません。
親を変えることも、親に謝罪させることも、非常に困難です。
そして、仮に親が謝罪したとしても、それだけで人生が好転するとは限りません。
あなたが抱える生きづらさを克服し、人生を変えられるのは、あなた自身だけなのです。