自分勝手な期待が、あなた自身を追い込むワケ
「期待」 という言葉。
新明解国語辞典では、「望ましいことが起こるように心の中で望む」と定義されています。
これを「他者に期待する」と考えると、具体的にはどのような意味になるでしょうか?
おそらく、「他者に、自分が思う望ましいことを成し遂げてほしい」となるのではないでしょうか。
しかし、他者に自分の思い通りの行動を期待するということは、少なからず他者の意思や行動を、自分の期待に沿わせようとすることにつながります。
ここに、私は「期待における支配性」を見ることができます。

私たちが他者に期待をする上で最も大切なことは、その期待を相手が心底から受け入れ、双方で納得していることです。
期待する側は、期待をかけられた相手を支援し、期待された側は、その期待に応えようと努力する。
これが、他者に対する健全な期待の形です。
しかし、もし双方の納得がないまま、期待する側が一方的に期待を押し付け、その実現を強く要望した場合、それは相手の意思を無視した、「強い支配性」へと変わってしまいます。
本記事では、この状況を「他者に対する自分勝手な期待」と定義したいと思います。そして、他者に対して自分勝手な期待をする人は、往々にしてその期待によって、自分自身が心理的に追い込まれるという事態に陥ることが少なくないのです。

自分勝手な期待が、あなた自身を心理的に追い込む理由
なぜ、一方的な期待が、最終的に自分自身を追い詰めることになるのでしょうか。
具体的な例を通して考えてみましょう。
1.子どもへの過度な期待が、関係の悪化と孤立を招く
2.夫婦間の期待のずれが、関係の破綻を招く
3.職場の期待が、ハラスメントやトラブルの引き金に
4.他者に期待する際に最も重要なこと(まとめ)
1.子どもへの過度な期待が、関係の悪化と孤立を招く
親が一方的に、自身の高い期待を子どもに押し付ける、いわゆる「親の期待の支配性」が高い状態が続くと、子どもの意思や心が無視され、行動を強制されることになります。
子どもは「何を言っても分かってもらえない」と感じ、親に対して心理的、物理的な距離を取り始めることがあります。
もし親がこの初期の段階で気づき、子どもと話し合うなど問題解決に向けて歩み寄れば、関係の悪化を防げるかもしれません。
しかし、親が自分の期待を押し付け続けた場合、子どもの失望や怒りは募り、親子間の断絶に繋がったり、さらには子どもの心の委縮から社会不適応の問題へと発展することもあります。

この時、心理的に追い込まれるのは、子どもだけではありません。
親もまた、深く心理的に追い込まれるのです。
例えば、子どもが学校に行かなくなったり、ひきこもってしまったりした場合、親は子どもの将来を心配し、何とか状況を好転させようと奔走します。
あるいは、「自分が子どもを追い込んでしまったのではないか」と、自責の念に苛まれるかもしれません。
そして、子どもの問題が長期化すればするほど、親の精神的な負担は増大していきます。
親の子どもに対する期待は、最初は純粋で邪念のないものであったとしても、一方的に押し付けられた期待が原因で、子どもに心理的な問題が生じ、最終的に親自身が苦境に立たされることになるのです。
このような事態を避けるためには、日頃からの親子の対話が何よりも重要だと言えるでしょう。

2.夫婦間の期待のずれが、関係の破綻を招く
夫婦は、二人で協力し合い、安定した家庭を築き、互いが心の安らぎを得られる関係性を築くことが大切です。
しかし、現代社会では共働き夫婦も多く、夫婦双方が家事や育児、役割分担について、互いに高い期待を抱き合うことがあるでしょう。
共働きで共に忙しい日々の中では、互いの期待を常に満たし続けることは非常に難しいのが現実です。期待を満たせないパートナーを責めたり、時には感情的な言葉で非難したりすることで、夫婦関係は著しく悪化していくこともあります。
もちろん、事前に話し合って役割分担に合意したとしても、実際の多忙な生活の中で、時間的、心理的、体力的な限界から、その期待に応えきれないことは多々あるのではないでしょうか。

このような場合、本来であれば、改めて話し合い、夫婦の役割分担を見直す必要があります。
しかし、話し合う時間や心の余裕もなく、ただ最初に合意した期待や役割に双方が固執してしまうと、まさに「自分勝手に他者に期待をした状態」と同じになってしまいます。
結果として、夫婦それぞれが相手からの期待に追い詰められ、それが憎しみに変わり、最終的に離婚へと発展するケースも少なくありません。
自分が期待したことに固執し、その期待に応えられないパートナーを責め続けた結果、今度は逆にパートナーから離婚を迫られ、自分自身が窮地に追い込まれる、という皮肉な事態になることもあるのです。
この状況で最も欠けていたのは、お互いを思いやる気持ちに基づいた話し合いではなかったでしょうか。

3.職場の期待が、ハラスメントやトラブルの引き金に
職場において、上司が部下に対して仕事の成果を期待するのは当然のことです。
しかし、その期待があまりにも高すぎると、部下の能力を遥かに超えた期待を押し付け続けることで、期待した上司自身が追い込まれる事態に発展することもあります。
例えば、上司が一方的に期待を押し付けたわけではなく、部下も納得して仕事を引き受けたように見えたとしても、上司と部下の力関係から、部下が内心では上司の期待に異論を唱えることができなかった、というケースは少なくありません。
つまり、部下は心の底から上司の期待に納得していなかったのです。
そして、いざ上司から期待された仕事を果たそうとして失敗してしまった場合、仕事の内容によっては、その失敗が会社全体に大きな影響を及ぼすこともあります。

このような時、部下に期待をかけ、仕事を任せた上司の責任が問われることになるのです。
これは、「自分勝手に部下に期待した」と断言はできないまでも、上司が部下と真剣に話し合っていたか、部下の意見に耳を傾けていたか、という点が問われることになります。
もし、力によって部下に期待を押し付けていたのであれば、それはまさに「自分勝手な期待を他者に押し付け、部下の失敗によって自分が追い込まれる」という結果を招くでしょう。
もちろん、部下も失敗する前に上司に相談すべきだったのかもしれませんが、部下としては「一方的に期待を押し付けられた」という思いが強く、相談する気になれなかったのかもしれません。
また、次のような状況も考えられます。上司が部下に過度な期待をかけ、それを果たせない部下を厳しく叱責し続ける。
このような場合、部下は心理的・精神的に消耗し、うつ病などの精神疾患を発症する可能性もあります。
そうなると、部下は「上司の身勝手な期待と、度重なる叱責、つまり力による支配(パワーハラスメント)によって、自分はうつ病に追い込まれた」と上司を告発し、結果として上司自身が窮地に立たされる、という事態にもなりかねません。
会社や組織において、上司が部下に期待を伝える際に大切なこと。それは、以下の点に集約されるのではないでしょうか。

・話しやすい雰囲気で期待を明確に伝えること。
・部下の話に真剣に耳を傾け、意見を尊重すること。
・部下も自分の考えや懸念を率直に伝えること。
・部下が期待に応えることが難しいと感じた際は、都度、上司に報告・相談すること。
・上司は部下の報告・相談に対し、柔軟に対応し、必要であれば期待そのものを見直すこと。
双方が対等の立場で、建設的に話し合うことが何よりも大切なのです。
それができない場合、「自分勝手に他者に期待をする者」は、最終的に自分自身が心理的に追い込まれる可能性が高いと言えるでしょう。

4.他者に期待する際に最も重要なこと(まとめ)
親から子どもへの期待、夫婦間の期待、上司から部下への期待、これらのケースを通して考えてきましたが、共通して重要となるのは、相手の立場に立ち、相手を理解する気持ちを持ち、相手の意見を尊重して話し合うことの大切さではないでしょうか。
自分勝手に他者に期待を押し付けるのではなく、双方が納得した上で、その期待を実現するために努力する。そして、もし困難が生じた際は、常に相談し、解決策を共に模索する。場合によっては、期待そのものを柔軟に見直すことも重要です。
他者に対する期待は、硬直したものではなく、常に柔軟性を持たせるようにしましょう。
一方的な期待は、人間関係にひずみを生み、最終的にあなた自身を追い詰めることにも繋がりかねません。
健全な期待とは、相手への信頼と、互いを思いやる心があってこそ育まれるものです。