思い込みによる生き辛さ:その形成と解放への道筋
私たちは日々の生活の中で、常に何かを思い、考え、そしてその思考に基づいて行動しています。
つまり、私たちの行動の源は、まさにその「思考」にあると言えるでしょう。
たとえば、目の前に財布が落ちているとします。交番に届けようと考える人は、「届けなければならない」という思考からその行動に移りますし、着服する人は「盗ってもいい」という思考に基づいて行動します。このように、私たちの行動の多くは、その根源に必ず思考が存在するのです。

思考とは、ある状況においてどのように振る舞うべきかを都度考え、その内容に基づいて取るべき行動や態度を選択することです。そして、私たちは考えた通りに振る舞います。
様々な状況に対して「こうしよう」、「ああしよう」と考え、自分にとって最適な選択をします。
これは、行動や態度を選択できるということは、思考に幅があることを意味します。

思い込みに縛られる生き辛さからの解放を目指して
Index
1.思い込みに縛られる生き辛さ
2.私たちの生き辛さの根源:思い込みの形成と解放
1.思い込みに縛られる生き辛さ
さて、この「思考」に対し、「思い込み」という言葉が存在します。
思い込みもまた思考の一種ですが、そこには明確な違いがあります。
思い込みは、文字通り「思い込んでいる」状態であり、上述したような思考の幅がありません。
その結果、ある状況において取る行動や態度の選択肢が限定され、常に一定の振る舞いを続けてしまうのです。
思い込みは、時に私たちを強く縛りつけます。それは、ある特定の状況に対して、
- 「~こういなければならない」
- 「~こうでなければならない」
- 「~こうしてはいけない」
などと、まるで絶対的なルールであるかのように決めつけてしまいます。
この「何が何でもこうしなければ」という固定観念が、結果として「生き辛さ」を招いてしまうのです。

例えば、「私は人に認められなければならない」という思い込みを持つ人はどうでしょうか。
この思い込みのために、人に認められようと過剰な行動を取り続けてしまいます。
- 自分が忙しいにもかかわらず、人の仕事を積極的に引き受けてしまう
- 無理な残業や休日出勤を繰り返してしまう
- 試験で良い点を取るために、健康を害するほどの過剰な勉強をしてしまう
- 自分の意見を徹底的に押し通し、常に「勝者」であろうとする
- 誰にでも合わせてしまい、自分の意見が言えず、「良い人」を演じ続けてしまう
- 興味がないにもかかわらず、ボランティア活動に参加してしまう
このように、その人なりに、他者から認められるために必死に特定の行動や態度を取り続けるのです。
しかし、何事も過剰にやりすぎることは、心身に大きなストレスを与えます。
健康を損ない、自分らしさを見失い、人間関係に軋轢が生じることもあります。
その結果、心理的な問題を抱え込んでしまうケースも少なくありません。
思い込みは思考に幅がないため、その都度熟考するというプロセスがありません。

「こうあらねばならない」と思い込んでいるがゆえに、ある一定の状況において、無批判に、自動的に意思決定をしてしまうのです。そして、その結果として、苦痛や無理を伴う行動や態度を取り続けてしまうことになります。
では、なぜ「私は人に認められなければならない」といった思い込みを培ってしまったのでしょうか?

2.私たちの生き辛さの根源:思い込みの形成と解放
思い込みは、無批判・自動的に判断・決定されるものですが、今のように自動的に意思決定するようになる以前は、様々なことを考え、行動していたはずです。
その特定の考えと行動を繰り返し続けることにより、それが固定化されてしまい、選択肢が失われ、「思い込み」へと変質してしまったのです。
では一体、「私は人に認められなければならない」という思い込みは、どのように形成されたのでしょうか?

心理カウンセリングの臨床経験から考えると、例えば、幼少期に親があまり子どもを褒めない、認めないといったケースが挙げられます。
子どもは、親から認められ、褒められることで成長し、自己の存在意義を感じます。
しかし、子どもの頃から親に認めてもらうこと、褒めてもらうことが不足すると、何とか親に認められようと、過剰なまでに手伝いをしたり、テストで良い点を取ろうと頑張ったりと、様々な行動や態度を取り続けます。
この「親に認めてもらおう」という幼い頃の思考と、それに基づく行動・態度を常に取り続けることで、「認められなければならない」という強い「思い込み」へと固定化されてしまうのです。
そして、成長してもなお、「私は人から認められなければならない」と思い込んでいる結果、様々な無理を重ねた行動や態度を取り続け、生き辛さをもたらしてしまうのです。
思い込みとは、まさに「自動思考」であり、無批判なものです。
つまり、「これしかない」と思い込んでいる状態です。

しかし、本当にその「私は人から認められなければならない」という思い込みは、あなたの人生に豊かさをもたらしているのでしょうか?
この思い込みの、あなたの人生に対する有効性を今一度、立ち止まって振り返ってみましょう。
- そもそも「認められる」とは、具体的に何を指すのでしょうか?
- 認められた結果、あなたは何を得たいのでしょうか?
- もし誰にも認められなかったら、何が起こると恐れているのでしょうか?
- すべての人に認められることは、そもそも本当に可能なことなのでしょうか?
カウンセリングでは、私たちを苦しめる「思い込み」を明確にし、その思い込みをより建設的な思考へと書き換え、あなたが楽に行動できるよう、ご相談者様と共に深く考えていきます。
思い込みは、確かに私たちを縛り、生き辛さをもたらします。
もしかしたら、その思い込みは、あなたが子どもの頃に、一生懸命に考え、その親子関係や家庭を生き抜くために必要だったものなのかもしれません。
しかし、今の成長したあなたに、それは本当に必要なのでしょうか?